記事のポイント:
- NvidiaとAMDが中国向けの特定AI半導体を販売できる輸出ライセンスと引き換えに、売上の15%を米商務省に支払うことで合意しました。
- Nvidia、AMD、米国政府が合意した協定の意義を把握するためには、米中間の技術摩擦や、過去5年間に米国が中国に対して実施してきた様々な輸出規制など、広範な背景を理解することが重要です。
- この契約発表以降、法務専門家からは協定の法的曖昧さが指摘されています。米国憲法第1条第9節は「いかなる州から輸出される品目に対しても税または税金を課すことはできない」と定めており、この条項は通称「エクスポート・クロース(Export Clause)」と呼ばれています。
AI半導体契約の内容 主要条件と発動要因
8月10日(日)、複数の報道機関が、米国の2大半導体メーカーNvidiaおよびAdvanced Micron Devices(AMD)が連邦政府と前例のない契約を結んだと伝えました。Nvidia、AMDが中国向け特定のAI半導体を販売できる輸出ライセンスの付与と引き換えに、両社は売上収益の15%を米商務省に支払うと合意しました。
Nvidiaは「H20」というAI半導体を中国の顧客に販売する許可を得ており、AMDも同じくAI半導体「MI308」の輸出ライセンスが与えられる予定です。
The New York Timesによると、NvidiaのCEOジェンスン・フアン氏が8月6日(水)にトランプ大統領と面会し、レベニューシェア契約が成立したとのことです。AMDの同様の契約の合意時期については詳細が報じられていませんが、最終的にカリフォルニア州サンタクララの同社も同様の枠組みに達したと伝えられています。
8月11日の記者会見にて、トランプ大統領はこの合意を認め、契約に至る経緯を説明しました。当初は中国向けNvidiaのAI半導体売上の20%徴収を求めていたものの、フアン氏との交渉で最終的に15%に落ち着いたと明かしています。「少し交渉をして、小型の旧型チップの販売になった」とトランプ氏は語りました。契約発表後、Nvidiaは「米国政府のガイドラインに従った」と強調し、各国市場での活動において米国政府の規則を遵守している旨を表明しました。「H20については数か月中国に出荷していませんが、今後も輸出管理規則の下で米国の競争力が発揮できることを期待しています」とAP通信の取材に回答しています。
米中半導体戦争の簡単な歴史
Nvidia、AMD、米国政府による今回の合意の意義を理解するには、米中の技術摩擦という大きな流れの中で捉える必要があります。米国は早くも2020年5月、米国の技術を活用する企業が中国・ファーウェイ向けに半導体を設計・製造することを禁止すると商務省が発表し、中国最大級のテック企業の取り組みを抑制する狙いを明らかにしました。それ以降、米国は連続して対中輸出規制を実施しています。
対中米国輸出ライセンス規制の年表
- 2020年5月: 米国商務省が、米国の技術を使用する企業に対し、ファーウェイ向け半導体設計・製造の禁止を発表。数日以内にTSMCが方針に従い、ファーウェイからの受注を停止。2023年には中国通信大手の利益が約70%急減。
- 2022年10月: 米国産業安全保障局(BIS)は対中輸出管理を実施。米国メーカーによる半導体、半導体製造装置(SME)、その他関連技術の中国輸出を規制。
- 2023年10月: BISは前年に策定した輸出管理枠組みを拡大。規制品目リストを広げ、中国企業13社をエンティティリストに追加。「中国政府は、特に計算機、宇宙、AI、通信など民生技術をスーパーコンピュータの民軍融合プログラムや、人権侵害と結びつく監視用途に転用しようと試みている」と商務省担当者は語っています。
NvidiaとAMDが結んだ今回のレベニューシェア契約が特筆されるのは、近年の米国政府の「中国の技術進展を阻む」動きから大きく逸脱しているためです。従来の施策は、中国が米国を超大国として超えることを目指す「民軍融合」政策阻止が柱でした。一方、トランプ政権の今回の手法は「商取引で米国が利益を得られるなら、中国にAI半導体を供給しても問題なし」という取引的な姿勢にも映ります。
NvidiaとAMDのレベニューシェア契約は、米国政府による中国の技術進展抑制を目的とした近年の方針と大きく異なる点で特筆されます。
AI半導体輸出ライセンスの財務インパクト
このレベニューシェア契約は、NvidiaおよびAMDが今後の大きな収益を米国政府に還元する点で大きな財務的影響をもたらします。
- Nvidia: 2024年、同社は中国市場で約180億ドルの売上を計上。その算定をもとにすると、Nvidiaは中国市場参入のため年間27億ドルを米商務省に支払う可能性があります。
- AMD: Nvidiaより小規模で、2024年の年間売上は260億ドル弱。毎年約8億ドル分の半導体を中国に販売しているため、政府へ120百万ドル程度を還元する計算となります。
- 米国商務省: この契約により、NvidiaとAMDの中国向けAI半導体販売状況によっては、年間20~30億ドル規模の収入が見込めます。ただし、現在トランプ政権の幅広い関税制度による徴収額―5月から7月の各月で250億ドル超―と比較すればごく小さい数字です。今後より大きなレベニューシェア政策に発展すれば、これらの数字も急増する可能性があります。
取引を評価した多くのアナリストは、米国半導体メーカーにとって許容範囲と見ていますが、それでもレベニューシェアは利益率を圧迫するとみられます。Nvidiaは中国市場で売上総利益の8~10%を失う見込みで、AMDも約5%減少する試算です。
Nvidia・AMDレベニューシェア契約は違法か?
契約発表からわずか1週間程度ですが、トランプ政権によるこの大胆な方策の合法性をめぐって激しい議論が巻き起こっています。
- バイデン政権下で国際経済分野を担当したホワイトハウス職員ピーター・ハレル氏は、発表直後に契約が憲法違反であると主張。「中国に先端半導体を販売するためNvidia・AMDから15%の売上を徴収するのは政策上も問題だが、米国憲法は明確に輸出税を禁じている」と8月10日(日)のSNS投稿で述べました。
- ジョージ・W・ブッシュ政権で輸出管理責任者を務めたクリストファー・パディラ氏は、Washington Postへのコメントで「前例がなく危険」だと表現。「輸出管理は国家安全保障のためであり、財源捻出目的ではない」とも指摘しました。
契約発表後、法務専門家からは一層厳しい指摘が出ています。米憲法第1条第9節『いかなる州から輸出される品目に税または税金を課すことはできない』(Export Clause)に違反するとの声に加え、近年の法改正も疑問を投げかけます。2018年の輸出管理改革法(Export Control Reform Act)では、輸出ライセンス申請などに関連する手数料徴収を明示的に禁止。「本サブチャプターに基づき効力を有する規則に関連するライセンスその他の認可または請求に対する申請・処理・審査に関連付けて、いかなる手数料も課してはならない」と50 U.S.C. § 4815(c) に記載されています。
トランプ政権側でも、この特異かつ論争的な契約の法的課題に取り組んでいることを認めています。8月14日、ホワイトハウス報道官キャロライン・レビット氏は、商務省が契約成立に向けて調整や課題解決に注力していると強調。「合法性や仕組みについては、今まさに商務省が精査中であり、具体的運用方法については引き続き同省に問い合わせてほしい」と述べました。
トランプ政権当局者も、この前例のない論争的な契約の法的課題に取り組んでいることを認めています。
サプライチェーンリスク管理による変動対応
まだ最終調整中ではあるものの、Nvidia・AMD・米国政府のレベニューシェア契約は、今後米国企業とその輸出活動に新たな方向性を示す可能性があります。トランプ政権が国内外のサプライチェーンに持ち込んだ不確実性と流動性を考えると、組織は従来以上に俊敏性と積極的なリスク管理への依存が求められます。
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