記事のポイント
- よく誤解されがちですが、NDAA(米国国防権限法)は、米国企業がSection 1260Hに掲載された企業と取引することをこれまで禁止してきませんでした。この規定は、中国の軍民融合ドクトリンに基づき、中国軍と関係があると考えられる企業名を国防総省が公表することを求めるものです。
- 2024会計年度のNDAAにはSection 805という条項が盛り込まれ、DoD(国防総省)はSection 1260Hに掲載された企業と新規契約・契約の更新・延長を行うことができなくなりました。この法案自体は2023年夏に成立しましたが、新たな規制は2026年6月30日から施行予定でした。
- 2026年6月に発効した変更に加え、2024年NDAAのSection 805には2027年6月に施行されるさらなる拡大条項も含まれています。この条項により、国防総省およびその契約企業は、Section 1260Hのブラックリストに記載された企業から調達を行う企業とも取引することが禁止されます。
過去10年にわたり、米国政府は主要な経済競争国である中国に対する貿易規制を多角的に拡大してきました。その中でも特に顕著なのがNDAA(米国国防権限法)です。NDAAは毎年更新され、国防総省など連邦安全保障機関の予算・優先事項・調達方針を定める米国連邦法です。
NDAAの法令には、政府機関やその契約企業が遵守しなければならない貿易規定が盛り込まれることが多くあります。たとえば、2021年度のNDAAにはSection 1260Hという新しい条項が設けられました。この条項では、国防総省(または戦争省とも呼ばれる)が中国軍と関連性がある可能性のある中国企業リストを2030年まで毎年特定・公開することが定められました。Section 1260Hに掲載された企業も大半の米国企業との取引は引き続き可能ですが、重大な制約や米国市場へのアクセス制限が課されます。また、国防総省は毎年このリストを拡大していますが、2026年には特に多くの中国系企業の追加と新たな規制が加わりました。
こうした背景から、航空宇宙・防衛業界で事業を展開する米国企業はNDAAとSection 1260Hの動向に十分注意する必要があります。かつては軽微なコンプライアンス事項でしたが、近年および今後の法改正で、米国政府取引企業にとって重みを増しています。
Section 1260Hによる規制内容
よく誤解されがちですが、NDAAはこれまで、米国企業がSection 1260Hに掲載された企業と取引すること自体を禁止していませんでした。法律事務所DLA Piperの解説によれば、この規定は「主に情報開示の義務」であり、中国の軍民融合ドクトリンに基づき、中国軍と関係があると考えられる企業名を国防総省が公開することが求められていました。しかし、リスト掲載は取引自体を禁止するものではなく、米国の他の規制当局に対して当該企業が国家安全保障上のリスクをはらむ可能性があるというシグナルを送ります。これにより、ブラックリスト企業のリスクが高まり、将来的な制裁やさらなる規制の対象となりやすくなります。
しかし、「主に情報開示の義務」というSection 1260Hの役割は2026年6月に変わりました。6月30日、Section 1260H掲載企業に対するNDAAコンプライアンス規制を大幅に強化する重要な規定が施行されました。
2026年6月のNDAAコンプライアンス変更点
2021年NDAAのSection 1260Hは、中国企業リスト掲載自体には具体的な規制を課していませんでしたが、その後の認可法でさらに強化され、実効性を増しました。2024会計年度NDAAのSection 805により、DoD(国防総省)はSection 1260Hに掲載された企業との新規・更新・延長契約を締結することが禁止されました。この法案は2023年夏に成立したものの、新規制の施行日は2026年6月30日でした。
6月30日以降、DoDおよび同省と契約するすべての防衛関連企業は、Section 1260Hブラックリスト掲載企業と直接取引することが禁止されました。これは多くの専門家にとって、中国軍関連企業を米国防衛サプライチェーンから排除する、より包括的な長期計画の第一歩とみなされています。
今後控える2027年のNDAAコンプライアンス変更
2026年6月の規制強化に加え、2024年NDAAのSection 805には2027年6月施行予定の更なる拡大規定も盛り込まれました。この規定により、国防総省およびその契約企業は、Section 1260Hブラックリスト掲載企業から調達している企業とも取引ができなくなります。
これは、NDAAの既存規制を大きく拡大する変更です。米国企業は2026年6月施行のルールでは、Section 1260H掲載の中国企業との直接取引を避ければ遵守できました。しかし、2027年規制では、該当企業が自社サプライチェーンの2次・3次サプライヤ(tier 2・tier 3)として関与していないことも確認しなければなりません。言い換えると、直接の取引先(tier 1)のベンダー企業においても、ブラックリスト企業がサプライチェーンに組み込まれていない状態が求められます。
このNDAAコンプライアンス遵守には、該当する企業自身が高度なデューデリジェンスを行い、188のブラックリスト企業が製造ネットワーク内に存在しないか徹底的に調査することが必要となります。企業は2027年6月までにこの新たな義務を果たす必要があり、そのためにはサプライチェーンの可視化、tier 1サプライヤとの連携、もしブラックリスト企業が下層サプライヤとして発見された場合は、それらベンダー企業と協力して排除策を講じる必要があります。
2026年6月時点のSection 1260H掲載中国企業
6月初旬、国防総省はNDAA Section 1260Hに65社を新たに追加しました。これらの企業は、初めてリスト入りした独立系企業と、すでに掲載されている親会社の子会社という2つのカテゴリーに分類できます。
新規独立系企業
- Alibaba Group Holding Limited(Alibaba)
- Autel Intelligent Technology Corp., Ltd.(Autel Technology)
- Baidu, Inc.
- BOE Technology Group Company Limited(BOE)
- BYD Company Limited(BYD)
- CALB Group Co., Ltd.(CALB)
- EVE Energy Co., Ltd.
- Hangzhou Yushu Technology Co., Ltd.(Unitree)
- JA Solar Technology Co., Ltd.
- NIO, Inc.
- Novogene Company Limited
- Robosense Technology Co., Ltd.
- Tianma Microelectronics Co., Ltd.
- TP-Link Technologies Co., Ltd.
- Trina Solar Co., Ltd.
- WuXi AppTec Co., Ltd.
- Zhongji Innolight Co., Ltd.(Innolight)
既存掲載企業の子会社
Aviation Industry Corporation of China(AVIC)の子会社
- Align Aerospace LLC
- Avicopter PLC
- Cirrus Design Corporation
- Continental Aerospace Technologies, Inc.
BGI Groupの子会社
- BGI Americas Corporation
- Complete Genomics, Inc.
- GBI Diagnostics, Inc.
- Innomics Inc.
- STOmics Americas Ltd.
China Communications Construction Group(CCCG)の子会社
- CCCC Design and Consulting Group Co., Ltd.
- CCCC First Harbor Engineering Bureau Co., Ltd.
- CCCC Second Navigation Engineering Bureau Co., Ltd.
- CCCC Third Navigation Engineering Bureau Co., Ltd.
- China Transportation Materials Co., Ltd.
- Shanghai Zhenhua Shipping Co., Ltd.
- ZPMC North America, Inc.
China COSCO SHIPPINGの子会社
- China Ocean Shipping Company Ltd.
- COSCO SHIPPING Logistics Supply Chain Co., Ltd.
- Shanghai Ship and Shipping Research.
China Electronics Corporation(CEC)の子会社
- China Information Security Research Institute
- IRICO Group Company, Ltd.
- Shenzhen CEC Blue Ocean Holdings Co., Ltd.
- The 6th Research Institute of CEC
China Electronics Technology Group Corporation(CETC)の子会社
- 14th Research Institute of CETC
- 15th Research Institute of CETC
- CETC Research Institute 32
China Mobile Communications Groupの子会社
- Aspire Technologies (Shenzhen) Limited
- China Mobile Hong Kong (BVI) Limited.
China National Offshore Oil Corporation(CNOOC)の子会社
- China BlueChemical Limited
- China North Industries Group (Norinco)
- China North Chemical Research Academy Group Co., Ltd.
- Chinese Academy of Ordnance Science; Kiekert USA Inc.
- Merit Automotive Electronics Systems S.L.U.
- North Petroleum International Company Limited
- Yunnan Yuanjin Optical Instrument Co., Ltd.
China South Industries Group(CSGC)の子会社
- Baoding Tianwei Baobian Electric Co., Ltd.
- Beijing Beiji Mechanical and Electrical Industry Co., Ltd.
- Changan US R&D Center, Inc.
- China South Industries Group Corporation No. 59 Research Institute Co., Ltd.
- Sichuan Jian'an Industry Co., Ltd.
China SpaceSatの子会社
- Aerospace Star Space Technology Application Co., Ltd.
China Telecom Groupの子会社
- China Telecom Satellite Communications Co., Ltd.
- New Guomai Digital Culture Co., Ltd.
- Tianyi Cloud Technology Co., Ltd.
- Zhongjie Communications Co., Ltd.
China Unicomの子会社
- Beijing Telecom Planning and Designing Institute Company Limited
COMACの子会社
- Shanghai Aircraft Design and Research Institute
SDIC Intelligenceの子会社
- Beijing Meiya Hongshu Technology Co., Ltd.
最後に、Section 1260Hからは、米国内事業を行っていないと判断された10社が削除されました。
- Anhui Sun Create Electronics Co., Ltd.
- China International Information Services Ltd.
- China National Chemical Engineering Co., Ltd.
- China Traffic Construction USA, Inc.
- CNOOC China Limited(CNOOC China Ltd.)
- CNOOC International Trading Co., Ltd.(CNOOC International Trading)
- COSCO SHIPPING Finance Co., Ltd.
- Costar Group Co., Ltd.(Costar)
- GLARUN Technology Co., Ltd.
- Taiji Computer Co., Ltd.
防衛関連企業向けNDAAコンプライアンスの留意点
米国の防衛業界に関わる企業にとって、NDAAコンプライアンスと調達に関する最近・今後の変更は非常に重要です。以前であれば、Section 1260H掲載中国企業を把握していれば十分でした。リスト入りがより厳しい制裁の前兆とされてきましたが、Section 1260H自体には明確な義務はありませんでした。しかし現在では、このリスト掲載をきっかけに、軍民融合活動に関わっていると考えられる中国企業との関係断絶が求められています。
こうしたブラックリスト企業を特定し排除するためには、サプライチェーン可視化の実現とそのデータ活用が不可欠です。サプライチェーンを可視化できる組織であれば、自社の直接・下層サプライヤにSection 1260H掲載企業が存在するかどうかを把握し、NDAAコンプライアンス違反リスクを回避できます。こうした能力や情報がなければ、米国メーカーはコンプライアンス違反はもとより、企業イメージ失墜や市場からの排除など多くの課題に直面するおそれがあります。
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