年々、半導体の重要性はますます高まっています。これまでもノートパソコンやスマートフォン、さらにコネクテッドカーといった21世紀を代表する主要テクノロジーに不可欠でしたが、過去10年でその存在感は防衛・軍事技術にも広がっています。さらに近年では、人工知能(AI)の進歩を支える必須ハードウェアとしても不可欠な存在となっています。OpenAIやAnthropicのような先端AI企業は、NvidiaのBlackwell B200 GPUをはじめ、世界で最も高度なチップを用いてモデルを稼働しています。こうしたチップや、それを支えるソフトウェア・テクノロジーは、今やAI競争にしのぎを削る各国間で極めて重要な地政学的レバレッジとしても機能しています。
半導体は用途が幅広く、様々な国の安全や繁栄に直結することから、グローバルな半導体製造状況を継続的に把握することが極めて重要です。財務・地政学・貿易の観点からも、半導体の製造地は大きな意味を持ちます。こうした背景を踏まえ、Z2Dataは世界の半導体製造エコシステムの実態を明確にするため、主要かつ不可欠なチップがどこで設計・製造・パッケージングされているのかを含め、データ分析を実施しました。
Z2Dataによる半導体製造状況分析・インサイト
本分析では、いくつか注目すべきインサイトが得られました。主な内容は以下の通りです。
- 中国がチップ製造で大きな進展を遂げている地域の統計的把握
- 台湾が業界で圧倒的地位を確立している根拠となる主要半導体
- 米国は半導体生産で他国に後れを取っているものの、依然としてチップ設計分野でトップを維持しているという証拠
これらのデータは、一般的なメディアで流通する情報とは異なり、エンド機器メーカーなど半導体調達に携わる企業に対して、より多角的かつ詳細な半導体製造状況の理解をもたらします。このレポートがサプライチェーン責任者や企業の今後の調達判断に活用されることを期待しています。
半導体OEM企業への示唆
本レポートで得られるデータや考察は、広範かつ成長著しいチップエコシステムへの一層深い理解に資するものです。固定的な情報提供にとどまらず、サプライチェーン戦略立案の材料となる独自データ・インテリジェンスが、業界リーダーの知見を深め、現在進行形で生じている重要トレンドを明らかにすることを目的としています。
半導体製造エコシステムの理解拡大
調達・購買の専門家であっても、半導体製造の現場は複雑で動態的です。本レポートがまとめた情報・データは、この製造エコシステムの地理的分布を俯瞰するマップとして機能します。例えば、マイコン(MCU)が主にどこで製造されているのか知りたい場合は、米国と台湾が製造リーダーであり、日本・フランス・シンガポールがトップ5に続いていることが見えてきます。分離型半導体のサプライチェーンについて知見を深めたい場合も、本レポートの示唆を活用することで、これらのチップがどの国で設計・パッケージングされているか把握できます。このような詳細は「世界は全て台湾のファウンドリに依存している」「米国はもはや半導体を生産していない」といった通説を超え、より精緻な理解を促します。
同時に、本記事のデータは各国・半導体企業の相互依存性の大きさを浮き彫りにしています。例えば、米国は世界で最も多くのインターフェースICを設計している一方(本社所在地ベース)、台湾やドイツが多くのチップのディフュージョン(COD)を担い、東南アジア諸国(マレーシア・タイ・フィリピン)がアセンブリを担当しています。こうした事実の掘り下げを通じて、読者はサプライチェーンの相互依存関係や各国の役割について具体的なイメージを持つことができます。
本記事のデータが企業にもたらす活用例:
- グローバルな半導体製造エコシステムの地理的構造を把握する。
- 設計・製造・パッケージングが複数国で分担される、半導体製造における相互依存性を特定する。
- 特定コモディティの主な製造地を把握し、専門性を強化する(例:中国は分離型半導体で圧倒的生産量、台湾はFPGA・DRAMメモリー分野で突出)。
中国プラスワン国の製造能力の把握
2025年は米国企業にとって、国外からの輸入が非常に厳しい年となっています。特に中国への依存度が高い企業ではその影響が顕著です。トランプ政権は中国共産党(CCP)との間で通商戦争を断続的に続けており、現在、米国向け中国製品の多くに50%超の関税が課せられています。既存の中国関税が企業経営を圧迫しはじめた場合、リスク低減を図るため、より安定した米国との関係を持つ他国での調達を検討する動きも出ています。
本記事の一部データは、半導体製造における中国プラスワン国(China+1)を検討する際の参考になります。東南アジア各国(マレーシア・タイ・フィリピン)は組立・テスト・パッケージングなど後工程で着実に存在感を拡大しています。米国企業がチップの製造そのものをすぐ中国以外に移管するのは難しくても、組立(COA)では比較的柔軟な選択肢が考えられます。
リスク管理戦略の策定
本データ分析は、組織が新たなサプライチェーンリスク管理(SCRM)戦略を構築・実践するための根拠・指針を示します。米中間の高関税・報復措置・地政学的緊張が続くなか、中国で製造された半導体はより高いリスクと見なされる可能性があります。こうした場合、リスク低減策を具体的に講じることが求められます。脆弱性が高い品目としては、台湾拠点のわずか6社が供給を担うFPGAのようなカスタマイズチップなども該当します。
具体的なリスク管理策例:
- 代替部品・サプライヤ・製造国による調達先の多角化を図る。
- 生産拠点が限定されるチップを扱う主要サプライヤとの関係を強化する。
- サプライチェーンを多様化し、米国との地政学的リスクが高い国への依存度を軽減する。
- 組立地(COA)、拡散地(COD)の分析や「タリフエンジニアリング」による関税回避策を模索する。
Z2Dataによる半導体製造分析の手法
本記事のデータ取得にあたり、まず世界売上・用途・製造難易度などの基準で最重要な半導体コモディティ10種を特定しました。選定された10種は以下の通りです。
- アナログ/ミックスドシグナルIC
- 分離型半導体(ダイオード・トランジスタ・MOSFET)
- CPU(central processing units)
- FPGA(Field-Programmable Gate Arrays)
- インターフェースIC
- DRAMメモリー
- フラッシュ/EEPROMメモリー
- パワーマネジメントIC
- RF/ワイヤレスIC
- マイコン(MCU、Microcontrollers)
次に、Z2Dataデータベース内のこれら10コモディティの全アクティブ製造品番(MPN)についてデータを抽出し、チップの拡散地(country of diffusion・COD)、組立地(country of assembly・COA)、設計地の国ごとに分類しました。設計地は、半導体企業の本社所在地を代表値としています。
最終的に、各カテゴリごとに上位5カ国のデータに絞り込みました。(例:FPGAのCODでは、台湾・シンガポール・米国・日本・アイルランドの5カ国を分析)。最終レポートは30カテゴリ・数百万点に及ぶ個別半導体部品を網羅しています。
主要インサイト1:中国は分離型半導体で圧倒
ここ数年、中国の半導体製造強化に関する議論は盛んです。同国は製造能力の大幅拡大とサプライチェーン各所への食い込みを進めてきましたが、長年この業界を牽引してきた台湾・日本・米国に最終的に追いつけるかは未知数でした。
本レポートのデータは、中国が分離型半導体の製造エコシステムで急速に躍進したことを示しています。分離型半導体はダイオード・トランジスタ・MOSFET・整流器など単機能を担う個別デバイスです。Z2Dataのデータによると、中国はこれらの部品の製造・組立の両面で明確な首位となっています。(設計地は米国が最上位、中国は3位)
拡散地(COD)では、中国が27万品番超で首位となりました。
分離型半導体の拡散地(COD)トップ国
- 中国
- 台湾
- 米国
- 日本
- インド
また組立・テスト・パッケージング(ATP)でも、中国はグローバルで圧倒的な首位を維持しています。分離型半導体のCOAは38万品番超となり、2位の日本に3倍以上の差をつけています。
分離型半導体の組立地(COA)トップ国
- 中国
- 台湾
- フィリピン
- 米国
- タイ
主要インサイト2:FPGAとDRAMメモリーは台湾の中核
台湾が世界の半導体生産の60%超を占める、先端チップの90%を製造している、などの統計やストーリーは業界でも常に語られています。TSMCをはじめとする台湾のファウンドリは世界のサプライチェーンになくてはならず、台湾なしでは我々の日常的デバイスの多くは存在しないとも言われます。
こうした定説には一定の根拠がありますが、データを精査すると台湾の製造優位性に新たな側面が見えてきます。10コモディティすべてで台湾がCODトップ5に入る一方、その支配的地位の多くはFPGAとDRAMメモリーの2種類に集中しています。
FPGAに関しては、台湾は2位以下4カ国の合計よりも多くの製造量を誇り、1万3,000 MPN超がわずか6社の台湾サプライヤで生産されています。
FPGAの拡散地(COD)トップ国
- 台湾
- シンガポール
- 米国
- 日本
- アイルランド
FPGAの組立地(COA)トップ国
組立・テスト・パッケージングでも台湾は突出していますが、CODほどの圧倒的差はありません。COA上位は台湾(1万3,000品番弱)、韓国・マレーシア(各8,000超)が続いています。
- 台湾
- 韓国
- マレーシア
- フィリピン
- 米国
DRAMメモリーも状況は同様です。台湾は製造品番・品種・サプライヤ数ともに2位以下4カ国の合計を大きく上回り、首位となっています。
DRAMメモリーの拡散地(COD)トップ国
- 台湾
- 中国
- 日本
- 米国
- シンガポール
DRAMメモリーの組立地(COA)トップ国
組立・テスト・パッケージングにおいても台湾が首位ですが、COD・COAとも中国が確実に2位につけています。
- 台湾
- 中国
- ベトナム
- 韓国
- シンガポール
主要インサイト3:報道とは異なり、米国はいまだ設計分野で主導的
ここ数年、米国の半導体製造縮小に関する議論が盛んですが、米国は今なおグローバルな半導体エコシステムで極めて重要な役割を担っています。確かに米国内ファブの生産比率は1990年の37%から現在12%程度に落ち込みましたが、ミックスドシグナルIC、CPU、フラッシュメモリーなど主要コモディティでは引き続きトップ3に入っています。
米国が特に際立つのは、製造工程の「設計」段階です。戦略国際問題研究所(CSIS)によれば、米国は全世界のチップ設計販売の46%、設計ソフト・ライセンス販売の72%を占めています。
Z2Dataの分析結果もこれを裏付けています。調査した10コモディティのMPNのうち、設計地が米国である割合が他国を大きく上回っています。CPU、インターフェースIC、フラッシュ・EEPROMメモリーなど特定カテゴリでは特に顕著です。(設計地は半導体企業本社で推定)
さらに、ここで示した3カテゴリ以外も含め、今回分析した10コモディティ全てにおいて米国が設計地で首位となっています。以下はその一端の参考情報です。
CPUの本社所在地トップ国
米国は7,000超のアクティブMPNを設計し、2位以下4カ国の合計を上回っています。
- 米国
- 日本
- オランダ
- イギリス
- シンガポール
インターフェースICの本社所在地トップ国
インターフェースICでは米国の設計主導性がさらに顕著で、2万8,000品番近くを米系企業が設計しています。
- 米国
- 日本
- 中国
- ドイツ
- アイルランド
フラッシュ/EEPROMメモリーの本社所在地トップ国
フラッシュおよびEEPROMメモリーでも米国が設計リーダーとなっており、2万品番近くが米系企業の製品です。これらチップはMCU、ノートPC、自動車システム等にも不可欠です。
- 米国
- 台湾
- 中国
- スイス
- 日本
Z2Dataが実現する半導体サプライチェーンの可視化
トランプ政権による関税導入やそれに端を発する通商摩擦以前から、米国企業はサプライチェーン上で困難な局面に直面してきました。バイデン政権も中国製チップに高関税を課し、1月1日からの引き上げに米国OEMは対応を迫られています。
半導体は地政学的に重要かつ、防衛技術・民生機器問わず不可欠な部品であるため、今後も大統領政権や政党に関わらず他国により戦略的に利用される見通しです。だからこそOEM等は、Z2Dataによるサプライチェーンリスク管理ツールが提供する可視性・インサイトを活用することで、強力な競争力と安定調達を実現できます。
Z2Dataは、グローバルな電子部品サプライチェーンに関し、以下を含む充実したデータ・インテリジェンスを提供します。
- 部品単位での製造拠点マッピング
- パラメトリックサーチ
- 統一・クリーンなデータ
- 製造・ATP(組立・テスト・パッケージング)拠点情報
- 10億点超の電子部品に関する包括的部品プロファイル
- 詳細なクロスリファレンス
- 高精度なライフサイクル予測
- BOMリスクアセスメント
DRAMメモリー、FPGA、分離型半導体など主要コモディティを扱う企業は、Z2Dataが持つデータベースと専門知見をリスク管理戦略の基盤とすることができます。Z2Dataおよび電子部品サプライチェーンソリューションが貴社の調達安定と生産継続にどう役立つか、無料デモをぜひご予約ください。