本記事は、半導体およびエネルギー集約的な半導体製造プロセスがOEM(完成品メーカー)などのスコープ3排出量にどのように影響するかを検証する連載全2回の第2回です。
2020年代半ばに入り、サステナビリティやESG(環境・社会・ガバナンス)の枠組みは、一時的なムーブメントや抽象的な理想を超え、企業活動を推進する主軸となっています。その背景には主に2つの要因があります。1つは、世界中でサプライチェーン全体のカーボンフットプリント計算やデューデリジェンス、強固なガバナンス体制を義務づける新たな規制が着実に拡大しつつあること。もう1つは、上場企業や大手企業を中心に、持続可能性への取組について積極的に情報開示し、自ら説明責任を果たすべきだという認識がキーステークホルダー間で広がっているからです。
現在では、多くの企業に対してESGレポーティングの一環として、カーボンアカウンティング、特にスコープ1、2、3の排出量算定が求められています。この標準会計手法に不慣れな方のために簡単に説明すると、スコープ1は企業自身の活動による「直接排出」、スコープ2・3はバリューチェーン上の調達・取引を通じて間接的に発生する「間接排出」(スコープ2:購入した電力等、スコープ3:原材料から廃棄まで全プロセス)が対象となります。
特にスコープ3排出量は、カーボンアカウンティングにおいて最も複雑かつ困難な領域です。いわゆる「クレードル・トゥ・グレイブ」(原材料採取から廃棄まで)全体をカバーし、上流・下流両方の活動を広範に含むため、正確な算出には高度な知見と多大な労力が必要です。さらに、スコープ3はGHGプロトコルで定義された15のカテゴリにわたり、スコープ1・2の何倍もの規模となるケースも一般的です。自動車、民生電子機器、航空宇宙・防衛などの業界でOEMが自社カーボンフットプリントの全体像を可視化し、段階的に排出削減を目指すには、まずスコープ3の理解が不可欠です。
半導体排出量の課題とスコープ
スコープ3排出量にはさまざまなサプライヤ・活動・資材・部品が含まれますが、OEMのカーボンフットプリントに最も大きな影響を与える要素の一つが半導体です。
半導体の製造(前工程のファブ製造から、パッケージングなど後工程まで)には膨大なエネルギーと資源が不可欠です。シリコンのドーピングや高密度集積回路のエッチング、精密な製造装置の運転、クリーンルームでの厳格な温度管理・高い無菌度の維持など、いずれも極めて大量のエネルギーが要求されます。また、これらプロセスで使用される超純水も資源ストレスの一因です。生成・運用過程で純度の高い水が必要となり、微細な不純物さえも工程に影響するため、天然資源への負荷も無視できません。
2021年のSupplyChainBrain記事では、半導体大手が自動車メーカーを上回る温室効果ガス(GHG)排出量・水消費・有害廃棄物の規模を急速に拡大していると指摘されています。ナノテクノロジー分野の研究者によると「全般的な傾向として、チップが高度化するほどエネルギー消費も水消費も増大している」とされ、これらの動向や気候関連の情報開示の進展により、半導体産業は世界でも有数の汚染産業と認識されつつあります。
連載第1回では、TSMCの主要ファブ3拠点の排出データを元に、チップがOEM等のスコープ3排出量をどの程度押し上げるか、その分布や電子部品サプライチェーン全体でのエネルギー消費の構造を可視化する取り組みを紹介しました。今回は、さらに半導体製造の後工程であるICパッケージングに焦点を当てて分析を進めていきます。
半導体ICパッケージングにおける炭素排出量の分析
パッケージングは半導体製造の最終工程です。この段階では、集積回路(IC)を保護ケースで封入し、腐食や異物混入などによる故障リスクからチップを守ると同時に、スマートフォンやノートパソコン等の機器に組み込む際の電気的接点としての役割も果たします。Cadence Design Systemsの解説によると、パッケージは「デバイスと基板間の接続を確立する電気接点の基盤」となっています。
近年はファウンドリやファブのカーボンフットプリントに注目が集まりがちですが、実は後工程も見逃せません。本稿では、2大パッケージング企業であるASE Technology HoldingおよびPowertech Technologyの炭素報告データに基づき、排出量の実態を検証します。
ASE Technology Holding
ASE Technology Holdingは半導体業界における世界最大手のICパッケージング・テスト企業です。2023年の売上高は190億ドル、市場シェアはアウトソーシング半導体実装・テスト(OSAT)分野で約20%を占めます。同社は多様なパッケージングソリューション(フリップチップ、ワイヤボンディング、WLP、SiP等)も提供しています。
2023年、ASE Technology Holdingが報告したスコープ1排出量は68,432トンCO2e、スコープ2は1,499,405トンCO2eでした。スコープ3排出も公表しており、8,992,577トンCO2eと、直接排出(スコープ1)の130倍以上に達しています。企業全体のカーボンフットプリントだけでなく、Z2Data独自リサーチにより個別拠点の排出データも入手しました。下表は、ASE Technologyの大規模工場2拠点のカーボンアカウンティングをまとめたものです。(トップラインの排出データは第1回同様、グローバルな非営利開示プラットフォームCDPを参照)
Powertech Technology Inc.
台湾に本社を置くPowertech Technology Inc.(PTI)は、OSAT大手の1社です。PTIは2023年に22億ドル超の売上を記録し、メモリチップパッケージ・テストで世界最大手の地位を維持しています。IC実装のほか、チップバンプ、チッププロービング、バーンイン(熱・電気的ストレスを与えて故障箇所を特定する半導体テスト)なども展開しています。
PTIの炭素排出量はASE Technologyほどの規模ではないものの、スコープ2・3では大きく水準を上げています。2023年のスコープ1排出量は14,381トンCO2eと比較的控えめでしたが、電力購入等によるスコープ2は328,260トンCO2e、バリューチェーン全体のスコープ3は314,329トンCO2eとなっています。下表は、PTIの主要2拠点のカーボンレポート値です。
ICパッケージング企業と他業界の比較
世界最大規模のICパッケージング企業であっても、半導体前工程の製造現場ほどにはエネルギー消費は及びません。TSMCやGlobalFoundriesといったファウンドリは、単独のファブでさえもスコープ1排出量が数十万トン規模、時には公開企業全体を上回るCO2排出量を記録しています。
とはいえ、企業全体で見れば、ASE TechnologyやPTIといったパッケージング企業のカーボンフットプリントは、OEM大手と同等水準です。例えば台湾のAcerはラップトップやタブレットなどを製造し、年商約80億ドルを誇ります。2023年のスコープ1排出量は2,705トンCO2e、スコープ2は14,342トンCO2eであり、OSAT2社の数値と比較しても小規模です。一方、エネルギー消費量の極端に多い航空宇宙メーカーBoeingは、昨年スコープ1排出量642,000トンCO2e、スコープ2は779,000トンCO2eに上りました。
つまり、ICパッケージング企業は一部製造業のような大量の直接GHG排出はしないものの、多量の電力使用によるスコープ2排出が他の大口汚染企業に匹敵します。ここでのポイントは、スコープ3排出量が増加している背景には、半導体製造現場に限定されず、チップ生産におけるOSATプロセスもOEMの上流フットプリントの主要因となっていることです。
スコープ3排出量をめぐる状況や、そこで半導体が持つ巨大なインパクトは、今後さらに多くの企業にとって重大なテーマになります。ESGやサステナビリティ関連規制はグローバルに広がり、カーボンレポートへの社会的期待も同じく拡大しています。MSCI Sustainability Instituteの最新レポートによれば、2024年5月時点で上場企業の47%が何らかのスコープ3排出量を開示しており、2年前から20%以上の大幅増となっています。
いずれスコープ3排出量の算定・開示はOEMの標準となり、公開しない企業は例外的存在として、第三者によるESG評価や社会的イメージの面でリスクにさらされます。価値連鎖の全体像、とりわけ半導体が果たす規模不相応な役割まで洞察することが、新時代のESG責任に備えるうえで不可欠です。
最新テクノロジーによるサステナビリティ・環境影響の可視化
電子部品サプライチェーンを活用する企業がESGパフォーマンスをより深く把握したい場合、サプライチェーンリスク管理(SCRM)プラットフォームZ2Dataは多数の有用な機能を備えています。独自データベースと固有アルゴリズムにより、半導体デバイスからIP&l;E(インターコネクト・受動部品・電気機械部品)まで、何百万種類もの電子部品についてCO2排出量の高精度推定値を提供します。この膨大な環境データが、スコープ3排出量算定業務の起点となるリソースとなります。
Z2DataのCompliance Managerは、 OEM向けに製品・部品から直接サプライヤやサブティアメーカーまで網羅した包括的なコンプライアンス分析も実現します。Z2Dataおよび同社ツールが御社のサステナビリティ・サプライチェーン可視化・リスク管理をどのように支援できるかについては、ぜひWebサイトをご覧いただくか、デモを見るからお問い合わせください。