2021年2月、バイデン大統領は大統領令(EO)14017「アメリカのサプライチェーン」に署名し、7つの行政機関に対して国家の重要サプライチェーンのレジリエンスおよびセキュリティの評価を指示しました。その結果、米国エネルギー省(DOE)は、国立研究所を通じてエネルギー産業基盤を構成するサプライチェーンの評価を実施し、特に2050年までに米国の脱炭素化に必要な技術に注目しました。
これはDOEが2022年2月に発表した、評価対象11セクターのひとつである米国半導体サプライチェーンに関するディープダイブラポートの概要です。
はじめに
気候危機への対応と気候変動による深刻な影響の回避のため、米国は2030年までに経済全体の温室効果ガス正味排出量を50~52%削減し、2035年までに炭素汚染ゼロの電力セクターを実現し、遅くとも2050年までに経済全体でのネットゼロ排出を達成することを約束しています。
米国のエネルギー産業基盤は、2050年までの脱炭素化に向けて抜本的な変革が求められ、その変革の鍵となるのが半導体サプライチェーンの成長・エネルギー効率・セキュリティです。
半導体は、電気自動車、充電ステーション、風力発電設備、さらには脱炭素化に不可欠な電力網など、ほぼすべてのエネルギー分野の運用に欠かせない基幹技術です。
また、半導体は米国経済にとっても不可欠で、2020年には2,464億ドル以上の国内総生産(GDP)に貢献しました。輸出額は490億ドルに達し、2020年の輸出品目として航空機、精製油、原油に次いで第4位となっています。
本レポートでは、ネットゼロカーボン排出の実現に不可欠となる従来型・ワイドバンドギャップ(WBG)パワーエレクトロニクス(PE)半導体の双方に焦点を当てています。
テクノロジー
本レポートで「半導体」は、太陽電池用途を除き、エネルギーセクター脱炭素化に重要なアプリケーションで使用される半導体を指します。
これには以下が含まれます:
- WBG半導体(例:SiC・窒化ガリウム(GaN))は、電気自動車(EV)、産業用ヒートポンプなどの電化産業技術、風力・太陽光発電機などの再生可能エネルギー用途における電力フローの制御・変換・調整を担います。
- 従来型半導体(例:シリコン系)は、EV、エネルギー効率製造向け無線センサーシステム、建築物のエネルギー効率化、その他再生可能エネルギー技術などの用途で、データフローの管理によりエネルギー効率と再生可能エネルギーへの適用を実現します。
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用途の違いを生む主な要因は半導体の動作範囲です。両者とも600~900Vで優れた性能を発揮しますが、SiCデバイスはさらに高電圧領域でも動作します。現状でGaNとSiCが重複して使用されている分野のひとつがEVセクターです。
半導体サプライチェーンのマッピング
半導体の市場およびサプライチェーンはグローバルかつ極めて複雑です。 半導体製品の設計から製造・パッケージングまでには最大100日(うち輸送12日)が必要で、国境を70回も越える場合があります。
多くのサプライチェーンは原材料、加工材料、サブコンポーネント、製品、製造中止(EOL)後のリサイクル・再利用の5セグメントで特徴付けられますが、半導体の複雑さからこれに加え、設計、半導体製造装置(SME)、組立・検査・パッケージング(ATP)、先端パッケージングおよび研究開発(R&D)といった追加セグメントも必要となります(図9参照)。
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米国半導体サプライチェーンの主要な脆弱性
・脱炭素化によって再生可能エネルギーとそのインフラ需要が高まり、従来型およびWBGパワーエレクトロニクスのサプライチェーンへの圧力が強まります。国内製造能力や原材料調達の制約はさらに深刻化し、現在予想されている世界のシリコン生産は成長ペースに追いついていません。他のサプライチェーンも逼迫することが予想されます。とくにEVセクターは車両向け半導体需要増やインフラ整備の面から大きく影響を受ける可能性があります。
・半導体を搭載した製品の世界のエネルギー消費量は2010年以降3年ごとに2倍に拡大。脱炭素化による電化の進展、エネルギー集約型コンピューター用途の爆発的増加で、この成長はさらに加速すると予想されます。
- とりわけエネルギー分野における半導体技術の急速な普及により、半導体の性能・効率は、関連する他分野の技術の性能・効率にも直接的な影響を及ぼしています。
- 人工知能(AI)アルゴリズムの能力は2ヵ月ごとに倍増し、ビットコインマイニング向け半導体の電力消費量は一部の欧州諸国を上回る規模で、1年間で2倍へ増加しています。
・1995年に世界の半導体製造能力の26%が米国に所在していましたが、2020年には10%まで低下(欧州半導体産業協会)。エネルギー分野のニーズに応じた技術開発が特に重要です。米国はSiCパワーエレクトロニクス市場で一定の強みとHV分野での優位性を持ちますが、こうした技術の品質・コスト向上にはさらに開発が必要です。いま投資しなければ、この優位性は容易に海外流出する恐れがあります。
・新規デバイスを数十億ドル規模のファブ施設に直接導入することはほぼ不可能です。より高精度な制御技術で高効率デバイスが作れるようになれば、ツールメーカーを通じた導入が現実的となります。
・米国は先端パッケージング分野の能力向上も必須です。パフォーマンスや効率面でその重要性は急上昇中で、電化の進行とともにさらに高まります。先端パッケージングは設計力を強みとする米国の新規成長分野ですが、国内で製造拠点を確立しなければ、この重要な分野でグローバル競争に取り残されるリスクがあります。
・半導体製造は多くの水を必要とし、膨大なエネルギー消費とフッ素系化合物の使用により高いカーボンフットプリントを伴います。製造拡大に伴う環境負荷への対応が不可欠です。
・レジリエントなサプライチェーンの確立には高度な専門知識を持つ労働力の確保が不可欠です。この需要は現場技能者から高度学位の人材まで幅広く、米国市民・外国人労働者両方で補う必要があります。教育プログラム、移民政策、関連基盤の連携を図りつつ、厳格な労働基準や競争力ある賃金を維持することが重要です。
結論
米国は半導体産業においてリーダー的地位を有していますが、特に国内製造や先端パッケージング分野ではこの地位が低下しつつあります。
カーボン排出削減に貢献する技術は既に存在しますが、多くは地政学的リスクの高い地域に所在し、不透明かつ価格変動の激しいグローバル市場で取引される原材料に依存しています。
さらに、サプライチェーンの中流工程である材料加工や部品製造は、米国と複雑な地政学的関係を持つ諸外国に集中しています。
米国が半導体産業におけるリーダーシップを維持・拡大するには、従来型・WBGパワーエレクトロニクス半導体の生産・活用を強化し、環境負荷の低い新たな高効率半導体を開発することで、膨大な需要増に応えていく必要があります。
これを実現するためには、従来型半導体およびWBGパワーエレクトロニクス分野の両方で、熟練した国内人材の育成が不可欠です。